台北故宮博物院

        

j970119 川口由香里

  

1.はじめに

台北市郊外の緑豊かな山を背景にそびえる伝統的中国宮殿造りの建物、台北故宮博物院。

今やルーブル美術館、大英博物館、メトロポリタン美術館と並ぶ、世界有数の博物館、美術館と讃えられ、台湾第一の観光名所である。

しかし、その華やかさの裏には、中華民国と、中国の対立した歴史と、台湾と中国との複雑な関係が見え隠れする。

台北の故宮はいったいどのような存在か、また、今後どう発展していくか考察していく。

 

 

2.故宮が誕生するまで

現在、故宮に収蔵されている文物の多くは、もともと北京の紫禁城にあったものである。10月10日に膨大な量の貴重な宝物が収蔵された紫禁城は故宮博物院となったが、満州事変が起こり、戦火を避けるため宝物は南京へ移動した。さらに戦火が拡大され、宝物も中国中を大移動することになる。終戦後は故宮南京中央博物院などに無事戻されたが、国共内線で共産党軍が首都南京を脅かすようになり、蒋介石率いる国民党軍は1949年4月、宝物5万箱を台湾に移送した。その年の10月に中華人民共和国が成立し、12月に国民党軍は台湾に移った。

その後、台湾に移送された文物は17年間倉庫の中で保管されていたが、1965年に現在地に故宮博物院が完成し、全面的に一般公開された。

 

 

3.台北故宮博物院と北京故宮博物院との比較

     

           台北の故宮          北京の故宮



   参観料    50元(約200円)     50元(750円)

   面積     約800u          約72万u

   収蔵品の数  70万件           21万件

   場所     台北市街から8km      北京市中心部

 

上の表は、台北と北京にある故宮を簡単に比較したものである。

表を一目見てもわかるように、台北の故宮は面積が北京にある故宮の9分の1であるにもかかわらず、収蔵品の数は2.5倍にまで及ぶ。蒋介石率いる国民党がいかに膨大な数の文物を台湾に運んできたかがわかる。また、台北に運ばれた文物は厳選された逸品ぞろいでどれも価値の高いものばかりであり、戦火の中、これらの文物の点検保存や維持保護には、大変な苦労があったことが伺える。

また、北京の故宮は、北京市の中心部にあり、故宮自体が国のシンボル的存在であるため、その知名度は非常に高く、毎年多数の外国人が拝観している。しかし、台北の方もその「故宮の秘宝」を様々な国へ巡回展出することによって、その名を響かせており、これまで以上に期待されている。

 

 

4.将来への展望

故宮博物院は現在までに4回の増築工事をおこない、今や世界の五大博物館の1つと言われるまでに成長した。しかし、まだまだ発展の余地は十分に残されている。

 

  1. 再建築の可能性
  2. 故宮は既に4回の増築工事をしてきたとはいえ、総面積は世界の大博物館と競い合うことができないばかりか国内の新築、、あるいは建築中の博物案とも比較できないのである。また、故宮は収蔵文物70万件といい、品類も多い。そのうえ展示室が不足しているので、常に交代方式で、順番に展示していくしか方法がない。3ヶ月に一回の割合で展示物は交代されているが、それにしてもすべての秘宝をみようと思ったら、8年の歳月がかかると言われている。参観者のニーズに答えるためには展示スペースを増やし、誰がいつ故宮に来ても、見たいものをすべて見られるような環境を作っておくことが望ましい。

     

  3. 引き続き欠けている文物を買い集める

故宮の収蔵は、ここ十余年来の寄贈や買い上げによって、大いに旧蔵の不備を補充し、歴史発展の足並みがそろい、系統的に展示することができた。しかし、まだ欠けている収蔵物も多数ある。例に出すと、石彫金銅仏造像はすべて欠けている状態である。これらを研究する専門家にとってみれば、決して満足できないだろう。まさに故宮のこの方面におけるマイナス面を是正し、誰にでも満足してもらえる博物館へと発展していくべきだろう。

 

 

5.台湾人から見た故宮

さて、これまで「世界を代表する博物館」の一つとしての故宮を述べてきたが、ここで台北故宮の存在自体に疑問がでてくる。

この故宮で展示されている文物はもともと中国大陸にあったものであり、中国の文化である。この博物館ができた当初、台湾は蒋介石、蒋経国の支配下であり、大陸復光をねらう「中華民国」であった。台北・故宮のある意義は、敵である北京政府への対抗と、重要至宝を臨時的に保管することにすぎなかっただろう。

しかし、現在は中国とはかけ離れて「台湾」という国家を形成しようとしている。その中で、敵である大陸の文化を国宝として展示する故宮に対して、台湾人は憤りや矛盾を感じないのだろうか?

そこで、日本に留学している二人の台湾人学生(いずれも本省人)に台北・故宮の存在について聞いてみた。

 

<Aさんの主張>

私が台湾で義務教育を受けたころはまだ戒厳令が引かれており蒋介石は英雄扱いだった。もちろん「故宮の文物は自分たちの文化だと」教育されてきた。そのため故宮が台湾にあることは、台湾人にとって日常なので、あまり深く考えたことはない。

また、世界でも有名な博物館にまで成長した故宮を「大陸の文化だから…」といって、手放したくない気持ちもある。

故宮は私たち台湾人が唯一世界へ誇れるものである。蒋介石は本省人にとったら憎い指導者だったが、故宮に関しては評価している。

 

<Bさんの主張>

故宮に展示してあるものは、確かに台湾独自の文化ではない。大陸の文化である。だが、故宮の文物は、半分以上は自分たちの文化だと思っている。なぜならば、自分の先祖も中国人だからである。自分は「台湾で生まれた中国人」だと思っているので故宮で展示している中華文化は誇りに思っている。

蒋介石は台湾人に対してひどいことをしてきたが、戦乱の中、あれだけの数の高価な至宝を運んできたのは本当にすごい。また、それらの至宝が台湾にあることによって、文革の被害に遭わずにすんだので、「文化を守る」面ですばらしいことをした。

台湾は多民族国家である。本省人、外省人、原住民は互いに尊重していかなければならない。本省人は「中国で生まれた台湾人」だと自らを思っている。生まれ、民族は違っても、「台湾」という同じ地に住むものとして共存すべき。もし、故宮を「台湾の文化ではないから」という理由で否定的にとらえれば、外省人を排他的にとらえてしまうことになり、平和は損なわれる。

私は、外国から友達が台湾に遊びに来た時、必ず故宮へ案内する。それは、故宮は私たち台湾人の誇りだからだ。

 

この二人の台湾人は決して「統一」を望んでいるわけではない。将来的には「独立」する事を願っているが、この主張からは同じ中華文化を共有する中国人とうまく付き合っていきたいという気持ちが伝わってくる。

また、本省人、外省人との隔たりをなくし、原住民も含めて平和な「台湾人のための台湾」を作ろうとしている。台湾の故宮は、台湾人の誇りであると同時に、台湾人と中国人、本省人と外省人との間を結ぶ、橋渡し的な存在であるような気がする。

 

 

6.まとめ

前述した台湾人の故宮に対する思いはほんの一部であり、これがすべてではない。しかし、ほとんどの台湾人は故宮に誇りを感じ、これらの秘宝を戦火から守り抜いた蒋介石の行為を評価している。

中華民国から台湾に変わった今、台北の故宮は北京の故宮に対抗するものではなくなった。しかし、台湾という国家を作るまでには、多様な問題をクリアしなければならない。

 今、故宮は、一つの中華一元文化を代表する民族博物館として、国民の前にその偉容を現している。これから、この中華の優美な文化を世界に向けて宣揚するチャンスを作り、外向的孤立などの問題を突破してもらいたい。