私が座右の銘としていることはたくさんありますが、後漢書にある「志ある者は事竟に成る」という言葉が好きです。「志を強く持つ人は、いつかはやり遂げる」という意味です。それと対になるもので「人間万事、塞翁が馬」という故事も大切にしています。志を持って事竟に成る人もいれば、志半ばで、不幸にも事成らぬ人もいるでしょう。一方、大失敗をしたことがきっかけとなって価値ある大発見をする人もいます。
世の中のことは多分に運が左右します。なってみないとわからないということを達観しつつ、志を強く持ちつつ挑戦していると、仮に事成らず失敗をしたとしても、そこには何かしらの人生への意味が見出されるものです。志を強く持つことが人間であるということですね。
私は今までに二回のベンチャー(起業)に失敗をしました。自らが創業することに関してはどうやら運命は味方をしません。一方、人の起業を手伝っていると、なぜかみんな上手く成功していく。そして感謝をされる。人間万事塞翁が馬です。自分の経験を生かして人の起業のお手伝いをすることが、私の天職ではないか、ということに目覚めました。
気持ちを新たに人の起業を手伝う「ベンチャーキャピタル」という職業に従事して、早や十六年になります。これまで五十社くらいと関わりを持たせてもらいましたが、大きく成功して第一線で今も順調に活躍されているベンチャーのみなさんも居ますし、失敗して夜逃げされてしまうという苦い経験もあります。
今は生涯を通して、人の起業のお手伝いをするとともに、後進の指導をすることを職業人の趣味として取り組んでいます。
私が今後取り組みたいのは、世界を日本化する生活関連のベンチャービジネスを大学発で創っていくことです。日本の生活に根ざした普通の人が関わる商売、そういうビジネスをベンチャーとする。志さえあれば誰でもが挑戦できるのではないかと考えています。
この度、龍谷大学客員教授として、ご縁をいただいたのでその制度や仕組みを龍谷大学とこの京都で創っていきたいですね。龍谷大学は歴史と伝統、京都という地縁を背景の資源として持っています。それらを有機的に連関させ生かしながら、ベンチャーを志す学生の起業の支援やインターンシップの制度などをつくれないだろうか。ベンチャーを考える全学共通の科目とか、擬似的に挑戦するためのプロジェクト・ラーニングなども充実させたいですね。
私が好きな映画監督のジョージ・ルーカスが「人間の最大の資質は、好奇心である」と喝破されましたが、全く同感です
学生諸君には自分が持っている潜在的な好奇心に対して、素直に向き合って欲しいと願っています。まだ自分が何に興味を持てるのか分かっていない人には、それが見つかるまで、好奇心に溢れていてほしいのです。世の中の森羅万象を見て、聞いて、体験して、挑戦して、積極的にぶつかっていってほしいなと思っています。広い世の中には自分の好奇心を突き動かすものが、絶対あります。物事に触れた結果はじめて自分が動きだすことに気付くものです。是非学生生活の間に見つけ出してほしいですね。
就職の内定をもらえないと、社会の落伍者だと思ってしまう学生も多いようですが、それは間違い。人生の選択肢が増えたということです。ベンチャーを目指すことも考えたらどうでしょうか。挫折と感じる経験は、自分が道を切り開くきっかけになります。
しかしベンチャーはそう簡単に成功するものではなく、大概は失敗します。お金と経験を持った人生の後半に退職金をかけて失敗するのでは浮かばれません。若いうちに早くから挑戦をしておいた方が得ですね。世の中や諸先輩からの支援、捨て金をもらえる間にどんどん挑戦し、たくさんの経験を積みましょう。
学生本人が好奇心を持ち、志のタネになるようなものを掴み、そんな自分になるために生活していくことが、大学生活のあるべき姿だと思うので、保護者の方にはご自分の持っている人生の価値観を押し付けないでほしいと願っています。体験談は歓迎ですが。
子どもがすでに何かに目覚めようとしていたなら、是非信じて後押ししてあげてください。たとえ子どもの夢や考えがわからなくても「好きなことにチャレンジしなさい」、そういって後ろから応援してくださるといいなと思っています。